介護保険制度導入の背景
なぜ、介護保険ができたのか
平均寿命第一位を誇る日本は世界中から注目される世界一の長寿国となりましたが、世界のどの国もこれまで経験したことのない高齢社会を迎えています。
高齢化の進展に伴い、寝たきりや認知症などの介護を必要とする高齢者の増加、介護期間の長期化、重度化進行など、介護の必要性や重要性に対するニーズが増大しています。その一方、家族形態の変化により少子化・核家族化の進展、高齢者のみの世帯の増加や、介護する家族の高齢化なども深刻な問題となっています。介護を支えてきた家族をめぐる状況の変化を背景に、介護が必要になった高齢者やその家族を社会全体で支えあっていく仕組みとして平成12年4月から開始されました。
高齢化の現状と将来像
日本人の平均寿命は戦後、ほぼ一貫して延びており、女性は1984年に、男性は2013年に初めて80歳を突破しました。厚労省は「がんや心臓病、肺炎、脳卒中などによる死亡率が改善したことが要因」と分析をしています。医療技術の進歩や健康志向の高まりに伴って「今後も平均寿命は延びる余地がある」(同省担当者)ため、女性の平均寿命は90年を超えると推計しています。
《平均寿命の推移》
- 昭和55(1980)年 男性73.35年、女性78.76年
- 令和2(2020)年 男性81.34年、女性87.64年
- 令和47(2065)年 男性84.95年、女性91.35年
急速な高齢化に伴い、我が国の総人口は令和2年現在、1億2,617万人であり、そのうち65歳以上の高齢者人口は過去最高の3,589万人、総人口に対し65歳以上の高齢者人口が占める割合(高齢化率)は28.4%となっています。
高齢化率の推移は次のとおりです。
- 昭和55(1980)年 7.9%
- 平成2(1990)年 12.1%
- 平成22(2010)年 23%
- 平成27(2015)年 26.8%
- 令和7年(2025)年 30.0% ※推計
今後、日本の総人口が減少するなかで、高齢化率は上昇していき、高齢者人口は、令和24(2042)年に3,935万人でピークを迎え、その後は減少に転じるものの高齢化率は上昇していきます。
令和47(2065)年には高齢化率は38.4%に達し、約2.6人に1人が65歳以上であり、75歳以上の人口が総人口の25.5%となり約3.9人に1人が75歳以上になることが推計されています。
介護保険制度のこれまでの改正
平成12年4月から施行された介護保険法ですが、人口や国の財政、必要としている人の状況が変わっていくため、さまざまな調査結果を基に3年に1度見直されています。
介護サービスを利用できる人の基準や、介護サービス全体の量と内容を見直すことで、介護保険制度の維持が図られています。
介護保険制度の改正の経緯
- 平成12年4月 介護保険法施行
- 平成17年改正(平成18年4月施行)
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- 介護予防の重視(要支援者への給付を介護予防給付に。介護予防ケアマネジメントは地域包括支援センターが実施。介護予防事業、包括的支援事業などの地域支援事業の実施。)
- 施設給付の見直し(食費・居住費を保険給付の対象外に。所得の低い方への補足給付。)
- 地域密着サービスの創設、介護サービス情報の公表、負担能力をきめ細かく反映した第1号保険料の設定 など
- 平成20年改正(平成21年5月施行)
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- 介護サービス事業者の法令遵守等の業務管理体制の整備。休止・廃止の事前届出制。休止・廃止時のサービス確保の義務化 など
- 平成23年改正(平成24年4月等施行)
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- 地域包括ケアの推進。24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスの創設。介護予防・日常生活支援総合事業の創設。介護療養病床の廃止期限の猶予。
- 介護職員によるたんの吸引等。有料老人ホーム等における前払金の返還に関する利用者保護。
- 介護保険事業計画と医療サービス、住まいに関する計画との調和。地域密着型サービスの公募・選考による指定を可能に。各都道府県の財政安定化基金の取り崩し。 など
- 平成26年改正(平成27年4月等施行)
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- 地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実(在宅医療・介護連携、認知症施策の推進等)。
- 全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を市町村が取り組む地域支援事業に移行し、多様化。
- 低所得の第一号被保険者の保険料の軽減割合を拡大。
- 一定以上の所得のある利用者の自己負担を引き上げ。
- 特別養護老人ホームについて、中重度の要介護者を支える機能に重点化
- 平成29年改正(平成30年5月等施行)
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- 地域包括ケアシステムの深化・推進(保険者機能の強化等による自立支援・重度化防止に向けた取組の推進)。
- 新たな介護保険施設の創設。
- 地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進。
- 現役世代並みの所得のある者の利用者負担割合の見直し。
- 介護納付金における総報酬割の導入。
- 令和2年改正(令和3年4月等施行、内容により順次施行)
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- 地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する市町村の包括的な支援体制の構築の支援。
- 地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進。
- 医療・介護のデータ基盤の整備の推進。
- 介護人材確保及び業務効率化の取組の強化。
- 社会福祉連携推進法人制度の創設(※社会福祉法の改正)。
介護保険制度の目的
介護保険法は、加齢に伴って生じる心身の変化による疾病等により介護を要する状態となった者を対象として、その人々が有する能力に応じ、尊厳を保持したその人らしい自立した日常生活を営むことができることを目指しています。この実現のため、必要な保健・医療サービス及び福祉サービスが給付されます。この介護保険制度は、社会保険制度の一つであり、国民の保健医療の向上および福祉の増進を図ることが目的となっています。
「介護が必要になる」のは限られた人だけでなく、誰にでもその可能性があります。
自分らしい生活・自立した生活ができるように、そして利用者が自分に合ったサービスを選択することを基本としています。
介護保険制度の基本理念とは
介護保険給付は、要介護状態等の軽減または悪化の防止となるように、医療と連携しながら行われなければならないとされています。そして、このような保健医療サービスや福祉サービスは、要介護・要支援者の状況や環境に応じて、本人の選択によって、総合的かつ効率的に提供されるべきだとされています。介護保険は要介護状態になっても、本人の有する能力に応じ自立した日常生活を居宅において送ることができることを目指しています。
介護保険の基本理念をわかりやすく解説すると、次のとおりになります。
- 1. 自己決定の尊重
- 行政や専門職は、高齢者本人の決定を情報提供やサービス給付で支援しますが、決定権はあくまで本人にあるとする考え方です。
- 2. 生活の継続
- 今までと同じ生活を継続できるように支援体制をつくることが重要であるとする考え方です。在宅での生活が最も望ましいのですが、施設に入所する場合でも可能な限り、これまでの生活の継続性に留意した支援を行おうとする考え方です。
- 3. 自立支援(残存能力の活用)
- 高齢者の障害や疾病というマイナス面に着目するのではなく、残存能力やご本人の意欲を活用し、自立した生活が送れるような支援を行う考え方です。