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介護保険制度の仕組み(5)

11. 地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムの実現に向けて

日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。
65歳以上の人口は、現在3600万人を超えており(国民の約3.3人に1人)、2042年の約3935万人でピークを迎え、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。
このような状況の中、団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。
このため、厚生労働省においては、2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。

地域包括ケアシステム

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます。また、今後認知症高齢者の増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築が重要です。
人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。
地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。

地域包括ケアシステム
出典:厚生労働省

地域包括ケアシステムの捉え方

  • 次図は地域包括ケアシステムの5つの構成要素(住まい・医療・介護・予防・生活支援)をより詳しく、またこれらの要素が互いに連携しながら有機的な関係を担っていることを表わしたものです。
  • 地域における生活の基盤となる「住まい」「生活支援」をそれぞれ、植木鉢、土と捉え、専門的なサービスである「医療」「介護」「予防」を植物と捉えています。
  • 植木鉢・土のないところに植物を植えても育たないのと同様に、地域包括ケアシステムでは、高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた「住まい」が提供され、その住まいにおいて安定した日常生活を送るための「生活支援・福祉サービス」があることが基本的な要素となります。そのような養分を含んだ土があればこそ初めて、専門職による「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」が効果的な役目を果たすものと考えられます。
地域包括ケアシステムの捉え方イメージ
出典:厚生労働省

地域包括ケアシステム構築のプロセス

市町村では、 2025年に向けて、3年ごとの介護保険事業計画の策定・実施を通じて、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを構築していきます。
市町村における地域包括ケアシステム構築のプロセスは次図のとおりです。

市町村における地域包括ケアシステム構築のプロセス(概念図)
出典:厚生労働省

地域ケア会議について

地域包括ケアシステムを構築するためには、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時にすすめることが重要です。厚生労働省では、これを実現していく手法として「地域ケア会議」を推進しています。

具体的には、地域包括支援センター等が主催し、医療、介護等の多職種が協働して高齢者の個別課題に・解決を図るとともに、介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメントとの実践力を高める狙いがあります。

さらに個別ケースの課題分析等を積み上げることにより、地域に共通した課題を明確化し、課題解決に向けた地域資源の開発や地域福祉にかかる政策形成につなげる役割も担っています。

地域ケア会議には、次にあげる5つの機能があります。

  1. 個別課題解決
  2. ネットワーク構築
  3. 地域課題の発見
  4. 地域づくり・サービス開発
  5. 政策形成

地域ケア会議の推進のイメージは次図のとおりです。

地域ケア会議の推進
出典:厚生労働省

医療と介護の連携について

疾病を抱えても、自宅等の住み慣れた生活の場で療養し、自分らしい生活を続けられるためには、地域における医療・介護の関係機関が連携して、包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供を行うことが必要です。厚生労働省では、関係機関が連携し、多職種協働により在宅医療・介護を一体的に提供できる体制を構築するための取組を推進しています。

国が進めている在宅医療・介護の連携推進の方向性については、次図のとおりです。

住宅医療・介護の連携推進の方向性
出典:厚生労働省

生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加

今後、認知症高齢者や単身高齢世帯等の増加に伴い、医療や介護サービス以外にも、在宅生活を継続するための日常的な生活支援(配食・見守り等)を必要とする方の増加が見込まれます。

そのためには、行政サービスのみならず、NPO、ボランティア、民間企業等の多様な事業主体による重層的な支援体制を構築することが求められますが、同時に、高齢者の社会参加をより一層推進することを通じて、元気な高齢者が生活支援の担い手として活躍するなど、高齢者が社会的役割をもつことで、生きがいや介護予防にもつなげる取組が重要です。

生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加のイメージは次図のとおりです。

生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加
出典:厚生労働省

認知症初期集中支援チームと認知症地域支援推進員

「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指すため、介護保険法の地域支援事業に位置づけました。 認知症専門医による指導の下(司令塔機能)に早期診断、早期対応に向けて「認知症初期集中支援チーム」と「認知症地域支援推進員」の体制を地域包括支援センター等に整備を行い、認知症の人やその家族に早いうちから関わりを持ち、早期診断・早期対応に向けた支援体制を構築することを目的としています。

認知症初期集中支援チームと認知症地域支援推進員の役割と実施体制のイメージは次図のとおりです。

認知症初期集中支援チームと認知症地域支援推進員について
出典:厚生労働省

12. 「地域共生社会」の実現に向けて

厚生労働省においては、改革の基本コンセプトとして「地域共生社会」の実現を掲げ、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)や、「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」(平成29年2月7日 厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部決定)に基づいて、その具体化に向けた改革を進めています。

「地域共生社会」が提案された背景

我が国では、高齢化や人口減少が進み、地域・家庭・職場という人々の生活領域における支え合いの基盤が弱まってきています。暮らしにおける人と人とのつながりが弱まる中、これを再構築することで、人生における様々な困難に直面した場合でも、誰もが役割を持ち、お互いが配慮し存在を認め合い、そして時に支え合うことで、孤立せずにその人らしい生活を送ることができるような社会としていくことが求められています。

さらに、対象者別・機能別に整備された公的支援についても、昨今、様々な分野の課題が絡み合って複雑化しています。個人や世帯単位で複数分野の課題を抱え、複合的な支援を必要とするといった状況がみられ、対応が困難なケースが浮き彫りとなっています。

「地域共生社会」とは、このような社会構造の変化や人々の暮らしの変化を踏まえ、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すものです。

「地域共生社会」の実現を目指す改革の骨格と工程

「地域共生社会」実現へ向けた改革のイメージは次の図のようになります。

「地域共生社会」の実現に向けて(当面の改革工程)【概要】
出典:厚生労働省

改革の骨格は以下の4つに分類されています。

  • 地域課題の解決力の強化
  • 地域を基盤とする地域包括支援の強化
  • 地域丸ごとのつながりの強化
  • 専門人材の機能強化・最大活用

介護保険制度における「地域共生社会」を目指した改革

「地域共生社会」を目指した改革は介護保険制度にも及んでおり、改革の4つ骨格で掲げられた「地域を基盤とする地域包括支援の強化」に「共生型サービス」の創設として組み込まれました。

共生型サービスの概要

障害福祉のサービスを受けていた利用者が65歳を迎え、要介護認定を受けると介護保険サービスを優先して利用するという決まりがあります(介護保険優先原則)。その際、慣れ親しんだスタッフや施設から離れ、介護保険法に基づいて指定された事業所へサービス利用を変更しなければならないケースがありました。また、福祉に携わる人材に限りがある中で、地域の実情に合わせて、人材をうまく活用しながら適切にサービス提供を行う必要性もあり、それらを解決するべく平成30年に共生型サービスが施行されました。

介護保険では次の6サービスにおいて事業所が求める場合、共生型サービスとして認められることとなります。

  • 訪問介護
  • 通所介護
  • 地域密着型通所介護
  • 短期入所生活介護
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 看護小規模多機能型居宅介護

共生型サービスとしての指定を受けた事業所は障害福祉と介護保険の双方の利用者を受け入れることが可能となりました。共生型サービスを障害福祉として利用する方は今後、要介護認定を受けたとしても事業所を変更する必要がなくなりました。

このように、制度・分野ごとの『縦割り』を超えて、 人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく「地域共生社会」の実現を目指した改革が始まっております。

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